2024.07.31
「DIG:R STUDY MEETING #001」レポート
広島のまちをユニークな視点で深掘りし、より多様で豊かなライフスタイルの種を蒔くプロジェクト「DIG:R HIROSHIMA」(ディグアール ヒロシマ)の本格始動を受け、本プロジェクトの理念と自分にとって豊かなライフスタイルを考えるきっかけをつくるイベント「DIG:R STUDY MEETING #001」が、2024年2月16日(金)に広島市内で開催されました。
■日時 2024年2月16日(金)
■場所 Park South Sandwich
■ゲストスピーカー
一般社団法人リノベーション協議会 理事 浦川 貴司さん
良品計画 営業本部広島事業部 事業部長 高弘 綾子さん
インタビュアー・ライター 岩竹 香織さん
■モデレーター
一般社団法人HLL 代表理事 水木智英さん
一般社団法人HLL 理事 平尾順平さん
HLL水木智英さん・平尾順平さんのアイドリングトーク
まずはHLLを代表して水木さん、平尾さんから挨拶。今回の「DIG:R STUDY MEETING #001」のテーマは「これからの豊かな暮らし」であるとし、お互いどんな暮らしが豊かな暮らしであると思うかについて語るアイドリングトークで幕を開けました。
DIG:R HIROSHIMAの事務局からプロジェクトの概要説明
続いて、DIG:R HIROSHIMAの事務局を務める広島県住宅課の弘田さんより、DIG:R HIROSHIMAというプロジェクトがどのような背景のもと、何に取り組もうとしているのかについてプレゼンテーションがありました。
まずは、築14年の中古マンションを低コストでリノベーションし、都心部で理想の暮らしを手に入れた自身の体験にも触れながら、都心部だから得られる暮らしの豊かさや中古住宅とリノベーションの魅力について語った後、広島県の将来人口の推計や人口密度とサービスの関係など様々なデータを示しながら、広島県が既に人口減少のフェーズに入っている中、今後、中心地や公共交通の沿線から離れた地域で人口増加が予測されていること、人口密度が保てなければ様々なサービスが機能しなくなること、さらに、住宅市場の新築志向と昨今の建設コストの高騰が郊外部への人口拡散の加速に繋がる課題認識を説明。
その上で、広島県は人口を適度に集中・分散させる「適散・適集な地域づくり」を目指していること、そのためにDIG:R HIROSHIMAでは「都市的なライフスタイル」と「リノベーション」の魅力を発信しながら、都市部周辺(注釈:中心地や地域の各拠点にアクセスしやすいエリア)に暮らすという選択肢を提案していきたいとし、今回の「DIG:R STUDY MEETING #001」の目的については「ここでは『みんなでまちをつくっていきましょう』という話をしたい。それは何かすぐ活動してくださいということではなく、皆さんが選ぶライフスタイル、その選択ひとつひとつが積み重なって広島のまちがつくられるということをこの場で共有したい」として、プレゼンテーションを締め括りました。
ゲストスピーカーによるトーク
①一般社団法人リノベーション協議会 理事/浦川 貴司さん
トップバッターは、一般社団法人リノベーション協議会 理事の浦川 貴司さんです。
浦川さんは、「リノベーション」という言葉がまだ浸透していなかった時代に、株式会社リビタの立ち上げ数年目から参画。マンション一棟のまるごとリノベーション、戸建てのリノベーション、シェア型賃貸住宅など不動産の新しい価値をつくり続けて来たリビタでは分譲事業を中心に事業責任者に就いてきました。
まずは不動産業に携わることになったきっかけからトークはスタート。実は大学卒業後は繊維業界に身を置いていたという浦川さん。しかし家業が不動産事業をしていたこともあり「住宅というものをちゃんと真面目に考えてみよう」と不動産業界にジョイン。
当時はまだ新築至上主義の時代で、多くの人がほとんど思索を重ねることなく簡単に35年ローンを組んで新築住宅を当たり前の様に購入するのを目の当たりにし、売り手はもちろん、住まい手側のリテラシーもあげる必要があると感じるようになり、ベンチャー企業だったリビタに参画。そこで前衛的なリノベーション事業を次々と実行しました。
そのうちの一つ、「MUJI ReBITA case01」は浦川さんが入社まもない2008年にプロジェクトマネージャーとして携わった1棟まるごとリノベーションのプロジェクト。住まい手自身が住み方を考える“とっかかり”のある住まいは今、見ても斬新で古さを全く感じさせません。
そして冒頭で浦川さんが触れた「家を売った」というエピソード。その続きはこの「ちっちゃい辻堂」の話に繋がっていました。
「ちっちゃい辻堂」は、タワーマンションの建設など開発の波が押し寄せる湘南エリアで、「100年後の辻堂の最小単位の風景を作り直す」というビジョンのもと、土地を引き継いだ若い地主と9世帯の賃貸住宅の居住者が中心となって運営する小さなコミュニティ。
浦川さんは現在そこに新築された賃貸住宅に住み、つかず離れずの関係性を保ちながら幸せな時間を過ごしているといいます。
「これからの豊かな暮らし」は、新築とかリノベーションとか、所有するとかしないとかいう2項対立では語れない」とし、重要なのは「そこで暮らす人がどんな豊かさを自分たちで作り上げたいか」ではないかとしました。そして「豊かな暮らし」を実現するまちづくりでは「自分たちはもう生きていない100年先の土地や建物を想像してみることが大切」という浦川さんの話に、会場の多くの人が頷いていました。
最後に、リノベーション協議会が毎年実施するアワード「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」に見る豊かなライフスタイルの事例や、浦川さんが考える「豊かな未来をつくる『くらしのスタンダード』」を紹介。
浦川さんが考える豊かな暮らしとは、「喜びを共有できる仲間がいること、そしてそれができる街にする」ということ、そして「誰もが「一人称」で、豊かな暮らしの実践者であり続けること」が豊かさを感じること」だと思うとトークを締め括ると、会場からは大きな拍手が巻き起こりました。
②良品計画 営業本部広島事業部事業部長 /高弘 綾子さん
続いて登壇した、良品計画 営業本部広島事業部事業部長 高弘 綾子さんもまずは自己紹介からスタートしました。
現在、良品計画で広島事業部事業部長を務める高弘さんですが、原点は、2000年に広島市西区の商業施設「アルパーク」にできた店舗に、オープニングスタッフとしてアルバイトで入ったことだというエピソードに、会場からは「へえ!」と驚きの声が上がっていました。
その5年後にはゆめタウン呉の無印良品で店長を務め、2011年までに広島県内の無印良品の店舗を全て制覇。その後も、福岡、東京、埼玉、大阪など全国を転々としながら、各地でブロック店長やエリアマネージャーを務めた高弘さん。
「とにかく負けず嫌いで、誰よりも多く売りたいという気持ちが強く、大きな店に行くのが楽しくて仕方がなかった」と笑顔で当時を振り返ります。
2020年にはついに日本一の売り上げを誇る東京エリアのエリアマネージャーに就任。喜んでいた最中、新型コロナ感染症のパンデミックが発生。時を同じくして良品計画が、第2創業をキーワードに新たな企業理念を発表します。
高弘さんは、その中の「良品計画の二つの使命」が心に刺さったといいます。「地域のコミュニティセンターとして地域課題に取り組むとある『第二の使命』を見た時に、よく知りもしない東京にこのまま住んでいて面白いのかと思った」と、すぐに同時期に新設された「事業部」の広島の事業部長に立候補。広島に帰ることになりました。
高弘さんが広島に10年ぶりに帰ってきて驚いたことは、その10年の間に広島の無印良品の店舗が1店舗しか増えていなかったこと。そのため、今は広島全域に店舗を増やしたいと思っていること、そしてそれはただの小売店舗としてでなく、地域のコミュニティセンターとして、地域の方たちと一緒に地域課題に取り組む拠点にしたいと、熱い想いを語りました。
その後、現在、良品計画が行っているさまざまな取り組みやサスティナブルな商品開発をいくつか紹介して、トークを締め括りました。
終了後は会場から「地域のデザイナーとコラボは考えているか」といった質問も上がり、高弘さんに同行していた良品計画の橋本さんと山口さんらが「地域の文化の発展においてアートやデザインが果たす役割は大きい。積極的にコラボを考えたい」と返答。会場から拍手がおこりました。
③インタビュアー・ライター /岩竹 香織さん
最後に登壇したのは岩竹さん。「広島に住んでいる者として、ありのままの自分の生活を話そうと思う」という岩竹さんの言葉に、会場の人がうんうんと頷くなど温かな空気に包まれた中、岩竹さんのトークがスタートしました。
現在、広島市西区にある海が見えるメゾネットタイプの住宅で夫とふたりの子供と暮らしているという岩竹さん。前面のスライドに写真集の1ページのような部屋の写真が映し出されると、会場からは感嘆のため息が漏れました。
広島市内の中区から引っ越して5年が経つそうですが、引越しによって家族や自分自身の暮らし方も大きく変わったといいます。特に緑に恵まれた環境や地域の人々と小さな畑を共有するなど、地域との関わりが増えたことが意義深い変化だと話しました。
また、この機会に過去の暮らしについて振り返ることで色々な気づきがあったとし、振り返りで見えてきたことについて語り始めました。
幼少期はおてんばで習い事に夢中だったこと、友だちとの会話にしっくりこないことが多かったが、大学で民俗学や文化人類学と出会い自己肯定感を得たこと。大学院時代に御蔵島でフィールドワークを行い、広島の放送局に勤務時は東日本大震災の取材も経験。長野県小布施町の図書館で働き、大きな一軒家をシェアハウスのようにして暮らしていたこと。
そうした振り返りから、自分は住む場所に執着がないことに改めて気づいたという岩竹さん。
「結婚、出産によって初めて拠点を持った今は『とどまらざる得ない』状況でともいえるが、とどまったことで見えた景色もあるし、充足感もある」とその率直な想いを語りました。
最後に、岩竹さんが思う「まち・暮らし ・広島」については「まちとは本来流動的であるし、自分たちも変化して当然。だからその都度、自分のコンディションとまちの条件をマッチングさせていけばいい。そのためにもまちや暮らし方に選択肢がたくさんあるといいなと思う」として、トークを締め括りました。
また本来はこの後、参加者全員によるクロストークが予定されていたため、岩竹さんは会場のみなさんへの質問をいくつかご用意されていたのですが、時間いっぱいとなってしまい、クロストークは次回への持ち越しとなりました。
とても興味深い問いをたくさんご用意いただいていたので、ぜひ次回はクロストークを必ず実現したいところです。
クロージングトーク
全てのトークを終え、モデレーターを務めた平尾さんは「浦川さん、高弘さんのお話は『関係性』に注目したお話だと思いながら聞かせていただいたが、岩竹さんは関係をひとつひとつ解きながら次へと向かわれているところが少しお二人とは違うと感じて、そこに僕は豊かさを感じた」と総括しました。
終了後もほとんどの方が残って、ゲストスピーカーや参加者の皆さん同士で交流を深める姿が見られました。ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。またお会いしましょう!
取材・文:イソナガアキコ
写真:おだやすまさ
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