2024.10.21

「DIG:R STUDY MEETING #004」レポート

2024年9月27日(金)プロジェクトの理念と自分にとって豊かなライフスタイルを考えるきっかけをつくるトークイベント「DIG:R STUDY MEETING #004」が開催されました。
今回は、広島をテーマにした本づくりに取り組む4人のゲストをお迎えし、広島の新しい切り取り方や豊かなライフスタイルについて考えました。

■日時 2024年9月27日(金)19:00〜
■場所 Park South Sandwich
■ゲストスピーカー
 『d design travel』編集長 神藤秀人さん
 『TJ Hiroshima』企画編集長  山根 尚子さん
 『広島遊戯』編集部(株式会社パルコ所属)杉田 洋平さん
 『ニューHOPE』編集部 ブックキュレーター 今田 順さん
■モデレーター
 一般社団法人HLL 代表理事 水木 智英さん
 一般社団法人HLL 理事 平尾 順平さん

HLL水木智英さん・平尾順平さんのアイドリングトーク

進行は「DIG:R STUDY MEETING #001」と同じく、水木智英さんと平尾順平さんのコンビ。今回のテーマ「本づくりから考える広島の新しい切り取り方」について「なぜこのテーマに?」という平尾さんの問いかけに、「今年は《広島》を特集する雑誌や書籍の発売が相次ぐ本の当たり年だったので、このテーマを思いついた」と水木さん。

最近、大学院に入学したという平尾さんは論文を書く際に言われたことを例に出し、「論文や本を書くということは、過去にあったものを整理し、新しい視点を提供することだと言われた。だとすれば、(本というジャンルで広島がこれだけ注目されているのは)これまでのことを整理した上で新しい広島を提案するタイミングだったんじゃないか」と返し、自然に拍手が沸き起こりました。

こうして会場の空気も温まったところで、「DIG:R STUDY MEETING #004」がスタートしました。

4人の編集人が語るそれぞれの《広島》

まずはゲストスピーカーの4名それぞれに、自己紹介と本にまつわる取り組みや広島について思うことなどお話していただきました。その内容を一人ずつご紹介します。

『d design travel』編集長/神藤秀人さん(D&DEPARTMENT)

神藤です。ナガオカケンメイというデザイナーが立ち上げた「D&DEPARTMENT」という会社で『d design travel』というガイドブックをつくっています。2009年に創刊して以来、1年に2〜3冊つくってきて、今回34件目で広島を特集させていただきました。

僕らが『d design travel』をなぜつくるのか。それは日本に伝わる本当に価値のあるものは何だろうか、ということを残していくためです。

良いものづくりってお金も労力もかかる。廃れていくものも多くある中で、それをなんとか次の世代に伝えていくために、僕らはデザインが必要だと考え、デザイン視点で47都道府県に1冊ずつ『d design travel』というガイドブックをつくることにしました。

編集や取材対象選定の考え方はいろいろありますが、僕らは現地に2ヶ月間住み込んで、地元の人と同じように生活をして、その土地の“らしさ”を発見していきます。

広島号をつくるにあたって4月後半から8月ぐらいまで2ヶ月以上広島で暮らし、掲載箇所はだいたい60〜70箇所。そのために300箇所ぐらいは実際に見て回りますし、定番といわれるような場所やモノは、僕がなぜ選んだのかということをきちんと紹介するようにしています。例えば《お好み焼き》だと「なぜこんなに根付いてるのかな」ということを調べました。

逆に訪れるまで全く印象になかったのは《川》だったんですけど、2ヶ月間、広島で暮らす中で川のある風景を広島らしいと感じたので、この会場にいる水木さんと今田さんに寄稿いただき、川の特集も組ませていただきました。

広島号は10月18日発売予定ですが、現在、僕らの拠点がある渋谷のヒカリエという商業施設で「広島エキシビジョン」という勝手に広島応援フェアを開催しております。表紙のイラストを描いてくださった手島さんの作品や、お好み焼きロペズさんの店先に飾ってあったぬいぐるみ、砂谷牧場の牧草300キロなど、僕が取材先の方からお借りしたものを紹介していますので、ぜひ渋谷にお越し頂い際はお立ち寄りいただけたらと思います。

平尾さんから神藤さんへ
いろんな街を見てこられた神藤さんならではの視点で、「広島の人は気づいてないんじゃないかな」みたいに感じたもの、ことはありましたか?

神藤さん
僕ら県外の人は広島のことをずっと復興した街だという印象を持っていた。でも水木さんも今田さんもですけど、広島の人って全く「復興」って言ってないし、それより「未来」のことを話していると感じました。だから他県の人が思っている以上に、カタカナの「ヒロシマ」の意味ってもう違っているんじゃないかというのは、広島に来て感じたところです。

『TJ Hiroshima 』企画編集長/山根 尚子さん

山根といいます。編集者としてどんなことをしているのかお話させていただきます。

私は1977年創刊の広島の月刊情報誌『TJ Hiroshima』の編集部員を23年ばかりやっています。編集の仕事を20何年やっているうちに、色々な仕事に声をかけていただくようになりまして、『TJ Hiroshima』は紙媒体なんですけど、昨今、紙からどこの社会にも出ないっていうのは良くないというか、地域ともリアルなタッチポイントを増やしたいっていうことで、社会とつながるようなリアルな企画もちょいちょいやっています。

2017年10月からは、広島県の『日刊わしら』という、広島の人が広島の魅力を共有するためのSNSの編集長もしています。コアな広島好きが集まって独特の何かを発しているのですが、これもアプリの中だけで閉じてちゃダメだよねっていうことで、地域と連動して様々なことをやりつつ存在感をアピールしています。

また2019年からは、広島県観光連盟の『牡蠣食う研』という、広島を世界一美味しく牡蠣が食べられる街にするための取材コンテンツ作りや、高校生のための就職情報誌『18(エイティーン)』という冊子も年に1回つくっています。

もう一つ『絶メシリスト』という群馬県高崎市から始まった、絶対になくしたくないグルメ紹介サイトの広島版の取材・執筆も担当しまして、本家のクリエイティブディレクターから「本家絶メシと同じぐらいクオリティが高い。こんな地方の絶メシは初めて」と褒められ、嬉しいと同時に「広島なめんじゃねえぞ」と思ったという、そんな感じです。

最後に、TJ Hiroshima編集部がプロデュースさせていただきました『地球の歩き方 広島』について。こちら1000件以上の物件が掲載され、別冊マップも40ページあります。 私は本編30ページと別冊マップ40ページを担当しました。こちらは今年の7月に発売となっております。本屋で見かけたらぜひ手に取っていただけたらと思います。

平尾さんから山根さんへ
広島の街を編集し続けている山根さんですが、最近の広島について何か感じる変化はありますか?
     
ちょっと前までは若い世代があんまりうごめいてないなって思っていたんですが、最近はめちゃくちゃうごめいてるなって思う。具体的に言うのは難しいんですけど、折にふれて、そういう場に遭遇してるって感じ。もう確実に自分は中年に向かってるんだなって思います(笑)。

『広島遊戯』編集部/杉田 洋平さん(株式会社PARCO)

東京から来ました杉田です。まず「PARCO」について紹介させていただくと、1969年に池袋PARCOができて今年が55周年、広島PARCOも今年30周年です。「PARCO」というと、ファッションとかカルチャーとかイメージされると思うんですが、そこはイメージ通りというか、昔から先人たちが築いてきたイメージをうまく活用しながら、クラスに30人いたら1人ぐらいしか反応しないようなことを色々やってきたっていう会社です。

ただ「PARCO」って、館内ではいろんなイベントやキャンペーンをするけど、館の外に出て何かをやるみたいなことは意外とやっていなかった。ただ僕に関していうと、珍獣扱いされてるというか、館の外で動くことが多くて、2年前は、名古屋で約3千平米の普段は人がほぼいない公園に、延べ200ぐらいブースを集めて、謎に16日間も催し続けるっていう、かなりマッチョな企画も担当して、その時は家に帰らなすぎて、家族に怒られたっていうこともありました(笑)。

そんな中、ちょうど去年、DIG:Rの取り組みを一緒にというお声掛けをいただいて、その結果生まれたのが『広島遊戯』です。僕のモットーはとにかく遊びまくる。出張が決まったらまず前泊、そこからできる限り延泊でスケジュールを組みます(笑)。編集もライティングも素人ですけど、『広島遊戯』は僕のそういう徘徊の成果がやっと出せるなっていうところでお引き受けしました。

『広島遊戯』の制作中、広島に通う中で感じたのは、広島は“リトル東京”ではないということ。独自のプライドだったり美意識を持っている。その点で広島ってピカイチだなと感じたので、インタビューもかっちり誌面に収める綺麗な情報より、こぼれた話も全部収めたいと思ったし、そこにこそ、その人が普段考えていることとか、変な癖だったりとか、執着していることのヒントがあるんじゃないかと思ったので、それを表現したくて結構長文になっちゃいました。週2回広島に通うのはなかなかハードで、地獄みたいな1ヶ月半を過ごしましたけど(笑)。

おかげで非常にいいものができて反響をいただいているようです。こういうことって「PARCO」自体のプロモーションにならないかもしれないけど、街の良さをみんなで再評価しようという、いいきっかけになるんじゃないかと期待しています。

平尾さんから杉田さんへ
「広島はリトル東京じゃない」っていうところ、住んでる人間からすると東京見ちゃっているんじゃないかなと思うところもあるのですが、どの辺がそうじゃないと思われたのですか?

杉田さん
街を歩く人にプライドを感じるというか、今回取材させていただいたところでいうと、「新京本店」さんっていう奇跡的な店も残っていたり、最初にぽっと浮かんだのは「てらにし珈琲」さんだったんですけど、 異常な接客というか、異常にいい、異常に感じがいい接客みたいな、 はっきり差が分かるものという、そういうマインド的なものですかね。

『ニューHOPE』編集部/今田 順さん(ブックキュレーター)

今田です。普段はまちづくりに関わる仕事をしています。その傍らで、個人で本のことにずっと関わっていて、一つは広島PARCOにみんなで本屋のポップアップをつくるというイベント「BOOK PARK CLUB」を主宰しています。そして今年から、『ニューHOPE』という、新しい広島の雑誌をつくっています。

今、広島では広島駅や広島市中区など都心エリアで開発が進んでいて、街の姿が大きく変わりつつあります。 一方で「River Do!」や「HIROSHIMA LIVING LAB」など、世代や属性を超えて集まった人々が、ちょっとずつ街を変えていこうという動きもあります。

こうしたまちの変化や動きをしっかりアーカイブして本にしよう、ということで始まったのが『ニューHORP』です。

個性的な5人の編集メンバーが集まって、「雑誌の『POPEYE』ぐらいの緩さを纏いたいよね」という方向性だったり、「まちづくりって結局、誰がやるんだ?」って話から「街で暮らす一人一人が感じる広島の希望『new hope』を集めよう」と、タイトルにもなった企画が生まれたりしました。

実際100人以上の方から「あなたが思う広島のnew hopeとは?」を集めて、今はそれを編んでいる最中で、発刊は2025年の春頃を予定しています。将来的には編集メンバーだけじゃなくみんなでつくる雑誌を目指していて、近日、リアルイベントも開催予定です(11月16日開催予定)。とある超大物生活系エッセイストのゲストも予定していますのでぜひ楽しみにしていてください。

最後に僕が好きな心理学者・北村晴郎氏が《希望》について語った言葉を紹介します。
「希望は来たるべき未来に明るさがあるという感知に伴う階調を帯びた感情である。」最初にこれを見た時、めちゃくちゃいい定義をしているなと感動して涙が出たんですが、『ニューHOPE』においても、みんながそれぞれ感じる希望《new hope》を集めて、ちょっと新しい雑誌をつくりたいと思っておりますのでよろしくお願いします。

平尾さんから今田さんへ
《希望》の解釈についての話、どういうところに“涙が出るほど”感動したのか、詳しく教えてください。

今田さん
北村さんが《希望》という言葉に全く重荷を背負わせてないってところがすごくいいなと思って、しかも最後、「感情である」「感知に伴う」って、それぞれ個人個人が感じる感情でいいんだなって、希望ってそういうもんだなみたいなことを短い言葉でスパっと定義してるってところに感動しました。

後半は参加者全員によるおしゃべりタイム

ゲストスピーカーの4人のトークの後、少しの休憩を挟み「とにかく皆さんの声を集めたい」という水木さんのひと言から、40名余りの参加者全員による自己紹介が始まりました。その中で聞かれた感想や質問、そして広島について思うことなどをいくつかピックアップしてご紹介します。

広島について//
・初めての地方暮らし。転出超過と言われているけど熱いものを持っている。
・広島生まれでも広島のいっぱい知らないところがあった。視野を広げていきたい。
・東京でもこういう会はあったけど、ちょっと繋がっただけで何かが起こる距離感がすごい。
・広島を出たいと思ったことがない、あったかい空気が生まれている広島が大好き。
・住みやすい、温暖な気候と駅からの動線がいい。
・広島にずっといるから、広島ってどうみられているのかな?というのが気になる。
・知り合いの知り合いが知り合い、というのが広島のいいところ。
・広島に馴染めない時期もあったが、働き始めて広島が好きになった。
・広島の人と人が近すぎることがいいときも悪い時もある。
・広島ってオレンジのイメージ。

川について//
・広島は川があって、水辺があるところがいい。
・広島にずっと住んでいるが、川は友達。何かあると川に行く。
・1週間に1回、川のそばを走っている。
・ある作家さんが「広島の人は川をかくと縦に書く」、という話を聞いて興味深かったので皆さんにも聞いてみたい。
 →ゲストの今田さん、杉田さん、山根さんは縦、神藤さんは横に描くというお答えで、大いに盛り上がりました。

イベントの感想、他//
・最高の地方都市。流出は多いけど、どんどん出て視野を広げて帰ってきてほしい。
・広島に来た人に留まってほしい。こういうコンテンツに触れればきっと好きになってくれるはず。
・「広島」って大きいテーマだけど、結局「人」とかになるんだなと思った。
・すごい瞬間に立ち会えている、すごいことが広島で起きている。
・4誌一堂に集まってイベントするのは広島ならでは、広島だからできること。

“ヒロシマ”は、未来を創る友情の証し。

このおしゃべりタイムのラストにDIG:Rを企画した広島県担当者から神藤さんへの質問と、その質問への神藤さんの回答が、このイベントを締めくくるにふさわしいと感じたので、最後にご紹介したいと思います。

質問者:「『d design travel』の編集長後記で「“ヒロシマ”は、未来を創る友情の証し。」と書かれていて、広島のことをいい形で言っていただいたなと思った。いろんなスポットを取材された中で、その言葉に辿り着いた真意をお伺いしたい」

神藤さん:「世界平和記念聖堂に行った時にその言葉が降りてきました。見学していいのかもよくわからない雰囲気で戸惑いましたが、ネットで調べてみるとこの建物は世界中から物が集められて造られたのだという。そういえば、平和大通りの木も全国から寄せられたものが植えられていますし、文化が違うといわれる広島の東西エリアの人たちも、それぞれ会って話をすると、この二つのエリアは互いに距離を縮めたがっていると感じました。そうしたいろんな事が僕の中で重なっていって、この言葉が生まれました」

神藤さんは『d design travel』の編集後記でこうも語っています。
・・・・
“ヒロシマ”という言葉には、もはや負の遺産や平和を祈るアピール以上に、人々を繋げ、広大な瀬戸内海に浮かぶ島々をも結び、みんなで新しい広島県の未来を創造するための引力が働いている。広島の復興は終わった。僕は、はっきりとそう思う。今の広島県は、友情ともいうべき“共創の暮らし”が育まれ、世界を、希望へと導いている。
・・・・

「DIG:R STUDY MEETING 」も、ゲストと参加者、そして参加者と参加者同士がゆるく繋がりながら、自分にとって、そして広島の街にとっての豊かさとは何かを考える共創の場。神藤さんが感じたという《未来を創る友情》、そして《新しい希望》を感じる、あっという間の2時間でした。

取材・文:イソナガアキコ
写真:おだやすまさ

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