2024.08.09
RiverDo! 基町川辺コンソーシアム
かつては物資輸送の大動脈として舟運で栄えた太田川。都市の発展に伴い、憩う人々や、川で遊ぶ子どもたちの姿は消えてしまっていた川辺に、今また賑わいが戻りつつあります。
2021年「川辺は広島の縁側」を合言葉に結成された「RiverDo!基町川辺コンソーシアム」。その代表理事を務める西川隆治さんと、理事の岡本 泰志さんと水木智英さんに、同団体が目指すこと、そのための取り組みについてお話を伺いました。
目次
・みんなが川辺のプレーヤーになる
・誕生のきっかけはコロナ禍の社会実験
・川辺という公共空間をみんなで「耕す」
・川辺はみんなをつなぐ広島の「縁側」
・未来の広島の日常をつくりたい
みんなが川辺のプレーヤーになる
「水の都」といわれる広島市。6本の川が流れる都心部の河岸は緑が多く、歩くのも楽しい場所です。広めの緑地帯が設けられた川辺ではバーベキューを楽しむ家族や、潮が引いた川の干潟で蟹を探す親子連れの姿を見かけることもあります。
視線を川に移すと、水上から観光名所を眺める遊覧船の姿や、SUP(スタンドアップパドルボード)やカヌーといったアクティビティを楽しむ人の姿も見られ、広島という街の水辺の豊かさを感じずにはいられません。
「川でアクティビティを楽しんだり、川辺でバーベキューや焚き火ができるというのは本当はすごく特別なこと。でもそれが『特別』だと気づいていなかったり、そもそもそういう楽しみ方を知らないという人がまだまだ多いのが現状。それがすごくもったいなくてね」
そう話すのは、RiverDo! 基町川辺コンソーシアムの代表理事であり、太田川でのSUP体験やツアー、また国際的なSUPレース大会の企画・運営などを通じて、広島の川の魅力を世界に発信し続ける西川隆治さんです。
西川さんが川の魅力を発信する活動を始めたきっかけは、初めて太田川にSUPで浮かんだ時の感動体験だといいます。
「川に浮かんだ瞬間「なんだこれは?!」と。川から眺める景色はいつもの景色と全く違うし、広島の街のど真ん中なのに、広い海でサーフィンをしているような解放感があって、この景色を僕が独り占めしちゃいけないと思ったんです」
一方、同コンソーシアムの理事を務める岡本泰志さんは、理事になる以前は川辺の脇道を散歩したり、雁木に腰かけて本を読んだりすることはあったものの、川辺が特別な場所という感覚はなかったといいます。
「でも川の上から眺める景色の美しさを、目をキラキラさせて話す西川さんを見て、彼がそういうなら川辺は間違いなく楽しい場所になると思えたし、僕自身も同コンソーシアムの理事になったことで、川辺のことを自分ごととして考えるようになって、この空間をもっとたくさんの人に有効に使ってもらいたい、そのために自分ができることは何でもしようと思うようになりました」
誕生のきっかけはコロナ禍の社会実験
「RiverDo! 基町川辺コンソーシアム」誕生のきっかけは、2020年からの新型コロナ感染症のパンデミックでした。同コンソーシアム設立前の組織化を担当した中電技術コンサルタントの水木智英さんはこう振り返ります。
「当時、広島でもコロナ禍をきっかけに屋外のパブリックスペースを見直そうという機運が高まりつつありました。一方、街中ではイベントの中止や店舗の休業が長引き、困窮する事業者が増え続けていました。そこでそうした人々の支援を目的に基町環境護岸の一部を解放し、一時的に利用していただく社会実験を中国地方整備局 太田川河川事務所様と共に行ったところ、飲食販売やワークショップ、演奏会など、9団体に参加いただき、参加者からは『これからもこんな風に川辺を使えたらいいよね』という声をたくさんいただきました」
手応えを感じた水木さんらは、川辺という公共空間をもっと自由に活用してもらうために、市民主導で恒久的に活動できるような仕組みづくりが必要だと考え、広島県内のまちづくりのNPO団体関係者らにも声をかけ、社会実験の参加者とともに定期的な勉強会を開くようになりました。
また市民の反応を見るための社会実験イベント「川辺にきん祭」を再び開催したところ、大きな反響を呼び、そのわずか半年後の2020年2月には「River Do! 基町川辺コンソーシアム」を設立。さらにその3ヶ月後の6月1日には、正式に公的占用者として基町環境護岸の管理運営を開始しました。
川辺という公共空間をみんなで「耕す」
同コンソーシアムは基町環境護岸の占用利用の受付窓口の運営はもちろん、占用エリアの草刈り・清掃活動も行政に頼らず、メンバーが自発的に行います。これは全国的にみても非常に珍しい事例だといいます。
「公共空間の占用運営を100%市民主導で行うというのは前例がなく、全国初の試みでしたが、僕たちは川辺を『自由』に使いたいという思いが強くあったので、そのためには、市民=自分たちが『責任』を持って管理するという意識こそが大切だったのです」(西川さん)
川辺はみんなをつなぐ広島の「縁側」
「太田川は広島の『家』であり、川辺はその『縁側』。そして川辺に集まるメンバーは『川辺の町内会』の会員。だから受付窓口の運営も草刈り・清掃は『町内会活動』と呼び、連絡をとりあうLINEグループは『町内会の回覧板』と名付けて、活動すべてを楽しむようにしています」(岡本さん)
大切なことは市民が川辺という公共空間のエリアビジョンを自分ごとに捉え、自発的なアクションに繋げていくこと。イベントを多く開催するのも「単に賑わいをつくるだけじゃなく、『川辺ってこういう使い方してもいいんだ』『こんなこともできるんだ!』と気がついてもらうための入り口をつくるため」と、その意義を強調します。
また本来、川というパブリックな場所はチャレンジしやすい場所であるはずなのに、多くの人が使いにくい、または気軽に使えない場所と思っていることも、大きな課題だと感じているそう。
「みんなでアイデアを持ち寄れば、川辺はもっともっと面白い空間になる。実際、川でヨガをしたり、川辺で会議や勉強会をした会社もありました。僕たちの想像を超えた使い方や可能性はもっとあるはずです」(岡本さん)
未来の広島の「日常」をつくりたい
「川は戦後もしばらくは子ども達にとって身近な遊び場だったんです。当時、元安川には飛び込み台があって、子ども達は川にバンバン飛び込んで遊んでいた。でもいつからか子どもにとっても、大人にとっても川は遠い場所になってしまった」(西川さん)
豊かだった川辺の営みを「昔は良かった」と片付けるのではなく、今の広島にとって意味のある形に取り戻したい。そのために、西川さんは考えているアイデアがあるといいます。
「子ども達にRiverDo! のイベントの企画から参加してもらおうと思っているんです。やり切ることができたら子ども達は『街のどまん中でやったったわ!』と思えるでしょ。その体験の場所として、川辺はポテンシャルしかないと思っています」
広島は街中にも自然と触れ合う場所がたくさんあることが大きな魅力だと水木さんも続けます。
「田舎暮らしも魅力的ですが、広島の都心だって川や公園などパブリックな自然がいっぱいある。それも自分たちのものだという価値の変換ができれば、都心の暮らしももっと豊かに感じられるはず」と、これからの活動に期待を寄せます。
同コンソーシアムが設立当初から掲げるビジョン、それは「未来の広島の日常をつくる」こと。
「つまり自分たちがいいなと思える風景をみんなでつくっていこう、ということ。それが当たり前にできるようになれば、『広島に住んでいてよかった』と思える人が増えるはず。若者だって大学で広島を出たとしても『やっぱり広島は楽しかったな』ってまた帰ってきてくれるんじゃないですかね」
profile
RiverDo! 基町川辺コンソーシアム
広島の川辺に新しい風景をつくることを目的に、2021年に発足。占有・管理する基町環境護岸の一部(RiverDo! フィールド)を中心に広島の川を一周するSUPレースやイベントを開催。
講演会、清掃、さまざまな活動を通して「水の都ひろしま」の実装に取り組んでいます。
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