2024.08.09
「DIG:R STUDY MEETING #002」レポート
2024年7月7日(日)、広島市東区牛田東にあるレンタルスペース「2nd(セカンド)」にて、豊かな暮らしにつながるヒントを共有する「DIG:R STUDY MEETING #002」が開催されました。
DIG:Rってどんなプロジェクト?
モデレーターを務めたのは一般社団法人 HLLの水木 智英さん。
まずDIG:R HIROSHIMAについて、広島というまちをユニークな視点でDIGる=深堀りながら、まちと暮らしの可能性を広げていく取り組みであること、すでに幾つかのプロジェクトが走り出していることを説明。
そしてこのSTUDY MEETING も「DIG:R HIROSHIMA」のプロジェクトの一環であり、2回目となる今回は「住まう」にフォーカスして学びを深めたいと抱負を語りました。
この日のSTUDY MEETING は2部構成。前半のトークゲストは、建築事務所 HANKURA Design 代表の島谷 将文さん。今回の会場に選ばれた2ndも、島谷さんがリノベーションを手がけた物件です。
「今日は僕だからできる事例を紹介したい。トークを聞き終わったら、リノベーションしたくなったり、これから紹介する事例のお店やホテルに行ってみたいと思ってもらえたら嬉しい」と意気込みを語った島谷さん。島谷さんが手がけた事例にまつわる話を聞きながら、みんなでリノベーションから始まる豊かなライフスタイルについて考えを巡らせました。
「普通はこうするよね」
をもう一度考えて少し変える
建築設計の枠にとらわれず、デザインによって新しい価値観が生まれるような提案を心掛けているという島谷さん。最近、クリエイティブな仕事をする上で大切にしているのは「普通はこうするよね」というところを一度立ち止まって考えることだといいます。
「建築は一度つくると壊したりとか新しくするのは難しい。だからこそ、始める前に一度立ち止まって「本当にそれでいいのか」と考えることが大事」といい、そのようにして手がけたリノベーションの代表事例をいくつか紹介してくれました。
「普通はこうするよね」をもう一度考えて提案したリノベーション事例
事例1 ホテルリノベーション
翌月に着工を控えた1棟貸しホテルの家具のディレクションを請け負うことになった島谷さん。そのホテルは目の前に瀬戸内海を一望する素晴らしいロケーションでしたが、設計図を見せてもらうとそのロケーションを全く活かせていなかったといいます。
島谷:その時点で建材や大工さんの手配もほぼ完了していたのですが、ロケーションを存分に活かしながら、コストダウンし工期短縮にもつながるプランを提案。施主の方にも理解いただき、提案したプランでリノベーションを任せてもらえることになりました。
事例2 ランドスケープリノベーション
7年前に岩国市にできた「イロハーブ」はショップ、レストラン、カフェなどを抱える複合施設。島谷さんは当初、カフェのリノベーションのみ依頼されたそうですが、カフェがそれほど劣化していなかったこと、カフェだけを変えるより施設全体の見直しが必要だと感じたことから、ここでも新たな提案をしたそうです。
島谷:この施設の一番の問題点は回遊性がないことでした。そこでカフェのリノベーションは最低限にしてコストダウンを図り、浮いた予算で施設全体の回遊性を高めるブランディングを提案。デザイナー、ライターらとチームをつくって、ランドスケープを含む、施設全体の魅力アップを図りました。
そのために島谷さんがまず取り組んだのが敷地の中に大きい山をつくること。広場に山を作ると、いろんなメリットが生まれるといいます。
島谷:人って全部見えてしまうとすぐ飽きてしまうんです。でも山があることで、見えない場所が生まれて、回り込んで見えない場所を見ようとする動線が生まれます。また公園のどまん中にレジャーシートに敷いてくつろいでいる人はいないですよね。それは人間が本能的に背後がある場所を好むからで、山をつくることで山を背面に安心してくつろげる場所ができました。
その他の事例 就労支援カフェと福祉施設が営むホテルの敷地リノベーション
この2つの事例の他にも、曳家をしてスムーズな動線と庭をつくった就労支援カフェのリノベーションや、造成ありきの物件であえて別の手法で敷地のリノベーションも行った事例なども紹介されました。
前半の島谷さんの事例紹介のパートを終えて参加者からは、「常識だと思うこともいったん立ち止まって考えてみるという話がとても響いた」という感想や、近日、リノベーションを予定しているという方からは「もっと早く知っていれば島谷さんに頼みたかった」という声もあがりました。
リノベーションから始まる豊かなライフスタイル ー2ndを事例にー
後半パートは今回の会場の2ndの施主である楠 広二さんが参戦。2ndという場所がどのような経緯で誕生したのか、また2ndのリノベーションによって生まれた新たな出会いや、これからについてトークが繰り広げられました。
2ndは楠さんのご実家だった場所。中学生までここに住み、それ以降は借家にしていたそうですが、今から2年半ほど前に、住まわれていた方が亡くなったことでこの家をどうするか、向き合うことになったといいます。
楠さん:築60年近くになる建物なので、壊すしかないかという思いもありつつ、更地にして新たにハードを作るような使い方はなんとなく嫌だったんです。どうせなら”かわいく”使いたいなと思いました。
しかし東京在住のため、どこからどうやって着手したらいいのか手立てがわからず、まずはインターネットで「広島市 建築家」と検索してみたところ、偶然、島谷さんを見つけたといいます。
楠さん:島谷さんのサイトには素敵な事例もたくさん紹介されていてこれはぜひお話を聞いてみたいなと、メールをして会う約束を取り付けました。それから1ヶ月後、約束の場所に短パン姿で現れた島谷さんを見て、あ、この人がいいなと思いました(笑)。
そこからとんとん拍子に話が進み、1ヶ月後には島谷さんからプランを提示。ほぼその通りにリノベーションをすることに決まりました。ちなみに楠さんからの注文は、間仕切りをなくし開放的な空間にしたいということ、2階に本棚をつくりたいということくらいであとは全部お任せだったそうです。
こうして誕生した「2nd」という唯一無二の場所。今は楠さんが数ヶ月に1回程度、東京から広島に帰ってきた時にセカンドハウスとして利用しつつ、普段は島谷さんの建築事務所のショールームとして、また多様な人が集まれるレンタルスペースとして活用され、その運営・管理を島谷さんが担っています。
「最初からこういう使い方をイメージしていたのか」という参加者からの質問に「自分にとって気持ちがいい空間ができたらといいなという思いはあったが、具体的なイメージはなかった」と楠さん。ただ島谷さんと色々話していくなかで、いろんなイメージが膨らんでいったといいます。
島谷:僕はつくったままじゃなくて、完成した後もプロデュースしたいと思っていたので、そのようにお伝えすると、「やってよ!」と言ってくださったので、提案書をつくってプレゼンさせてもらいました。今は、ショールームや打ち合わせの場所に使わせていただいているほか、レンタルスペースとしても運用しています。昨年、ここで開催したマルシェには100名以上の来場者がありました。
この集客力には楠さんもとても驚いたそうで、「こんなところに人が集まるのかなと思ったけど、いい場所ができれば人は集まるのですね」としみじみ。
ここをリノベーションして一番良かったと思うことは、2nd という場所を通じて島谷さんや水木さんなど、魅力的な人たちとたくさん知り合うことができたことだといい、「リノベーションして良かったと思いますか?」という問いには「大正解でした」と笑顔で答えてくれました。
最後にみんなで2ndを見学して「DIG:R STUDY MEETING #002」は無事閉幕。
リノベーションすることによって新しい価値がどんどん生み出されていくリアルな話に、会場は終始大盛り上がりで、今まさにリノベーションを考えている人はもちろん、そうでない参加者たちにとっても、新しい気づきと出会いの場になりました。
取材・文:イソナガアキコ
写真:おだやすまさ
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